drink14:マニア
「酒を飲まない人間は、どうも信じられない」と言う人がいる。
彼の言い分は、おおよそ次のようなことだ。「酒を飲み、酔っぱらい、ときには思いきりホンネをぶつけたり、自分をさらけ出したりすることのない人間は、腹の中で何を考えているのかわからない、ウサンくさい」と言うのである。
確かに、人間は飲んでいる時ついホンネが出たりすることがある。それは、酔っているため相手に無防備に話してしまうという場合もあれば、酔いの力をかりて故意に相手に訴えているという場合もある。いずれの場合も、そこには“ホンネ”があり、その人の“真実”を知るうえで、酒が大いに役立っていることになる。ただ、“真実”は知ることが目的なのではなく、知ったうえで“どうするか”が本当は大切なのではないだろうか。
ところが困ったことに、“単なる聞き上手”な人間というのがいたりする。あなたの職場の上司などはいかがだろうか? これがじつは、とても厄介なキャラクターなのだ。部下の話をこまめによく聞いてはくれるが、それを聞いて何かしてくれるということではない。よく聞くということで人望が厚かったりするのだが、じつのところ何の手助けもしてくれない。
「ふむ…… なるほど…… そりゃいかん…… そうか、なんとかしなければ…… きみもつらかっただろう…… なるほど…… うむ、考えておこう……」
でも彼は、何も考えないし、何もしない。ただ聞くだけ。あなたが訴えた“真実”は改善されることも改悪されることもなく、彼の中で放置されたままになる。
この“ただ聞くだけ”の人物が、「酒を飲み、酔っぱらい、時には思いきりホンネをぶつけたり、自分をさらけ出したりする人間」を好むタイプだと始末が悪い。彼は、いわゆる「ホンネ・コレクター」「真実マニア」なのだ。「ホンネ・コレクター」「真実マニア」は、隠されていることが好きなのだ。隠されていることは、とりあえず何でも知りたがる。“ホンネ”や“真実”のほか、“本性”と呼ばれているものや、“弱点”“恥部”として普段隠されているものなど、ありとあらゆるものを収集したがる。そして、自分の記憶のファイルに陳列しておく。
彼は、酒を自白剤まがいに用いる傾向がある。まずは「軽く1杯やっていこうか」と何気ないお誘いで始まり、飲みだすと「飲んだ時くらい、人間、バカにならなきゃ」などを常套句にし、酔いが深まると「きょうはじっくり腹を割って話そうじゃないか」と誘導尋問する。
そういう人にとって、飲まない人間というのは実に扱いにくい。だから飲まない人間に出くわすと「付き合いの悪い人間」「どうも信じられない」と拒絶反応を起こす。反対に、酔った勢いで大泣きしたり、裸踊りでもする人間を見ると、「憎めないヤツ」などと言ってひとかたならぬ好意を寄せたりする。
あなたが、そういう人に好かれているか嫌われているか、あるいは、好かれたいか嫌われたいか、それはあなた次第だ。
けれど、あなたの“ホンネ”や“真実”が酒のツマミになることだけはぜひ避けようではないか。それじゃあ、あまりにもあなたの“ホンネ”や“真実”が可哀想だから。
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