drink10:音楽
あなたは、最近、酒ぬきで音楽をじっくり聴いたことがありますか?
「そう言われると、どうだったかなあ。そんなこと意識したことないから、よくわかんないけど、ないかもしれないなあ」という答えが、けっこう多く返ってきそうだ。
バーボンのオン・ザ・ロックを味わいながらジャズを聴く、ワイングラスを傾けながらクラシックにひたる、チューハイをあおりながら演歌に酔いしれる、缶ビール片手にロックにのる……。
音楽と酒はじつに相性がいい。ゆえに、酒ぬきで音楽を聴くなど考えにくいかもしれない。「コンサートにでも行けば飲まずに聴くけど、ふだんはまずないね。かるく1杯やりながら聴くって感じかな」という人がフツーだろう。
そこで、そんなあなたに、ひとつの実験を試みていただきたいのだ。
実験とは、酒ぬきで音楽を聴いてもらいたいのだ。それも1曲や2曲ではなく、できれば、目をつぶってじっくりと何曲も聴いてほしい。音楽のジャンルはなんでもいい。あなたが好きなものでいい。
「音楽以外に何もなく、何もせずに、ただひたすら音楽を聴く」ということが、けっこう集中力を要し、意外と重労働だということを発見するはずだ。馴れるまでは、自分の好きな音楽でさえ、ややもすると途中で気が散って、集中はおろか睡魔さえおそってくるかもしれない。そこを我慢(楽しいはずの音楽を「我慢して」聴くなどナンセンスと言われそうだが)ぜひ、こらえて聴きつづけてほしい。
1日ではなく、3日、4日、さらに1週間、2週間と(忙しくて時間がないのは重々承知だが)根気よく音楽に向き合ってほしいのだ。けっして不可能なことじゃないはずだ。だって、あなたはかつて、そうやって聴いていたはずなんだもの。
そう。かつて──あなたが──少年少女のとき──そうだったように──あたかも恋をするように──音楽に──まっすぐ向き合って──聴いてみて──ほしいのだ。
かつて、あなたが10代の頃、1日じゅう音楽の近くにいたときがあった。自分の好きな曲を友だちにも好きになってもらおうと一生懸命に聴かせたり、人によっては深夜のラジオ番組にリクエストハガキを出したり、返事がないのはわかっていても好きなミュージシャンにファンレターを書いてみたり、コンサート情報をこまめにチェックしたりしながら……。あなたは、お気に入りの音楽を、それこそ肌身はなさず聴いていたはずだ。何度も何度も聴きなおし、口ずさみ、胸に刻みつけ、また聴きかえす……。
あなたはそうやって大切な1曲を、胸のなかにしっかりとしまい込んだはずだ。そうやって、けっして忘れることのない青春の音を自分のものにしてきた。
そう。あの頃、あなたにとって音楽は「独立」していた。酒を飲むことはあっても、けっして音楽は酒のつまみではなかった。
10代のあなたは成長し、学校を卒業し、社会人となり、日々はまたたくまに流れ、気がつくと「オジさん」とか「オバさん」になってしまっている。音楽とのつき合いも、いつしか変わってしまった。あなたの中で音楽は「独立」を失い、そのかわり、手っとり早くあなたを酔わせてくれるアルコールとコンビを組まされてしまった。
最近の音楽を耳にするたびに「近ごろの若いヤツの音楽は、どうも心にのこらない」なんて、まことしやかにコメントする人。あるいは「おれの感性、錆びついちゃってるからわかんないよ、もうオジサンだもん」とガードを固くする人……。
ほんとうは「心にのこらない」のでも「感性が錆びている」のでもなく、そもそもあなたの耳は「聴いて」いないのではないだろうか。「聞こえて」はいるのかもしれないけど「聴いて」はいない。なにしろ、酒のつまみだもん。
かつてあなたと音楽は、1対1の、真剣で、抜きさしならないつき合いだった。
いま、あなたと酒と音楽は、三角関係をつくり、火遊びのように、つき合う。OK、それも音楽だ。でもね、お客さん。それじゃあ、音楽だって、あんたには本気を見せてくれないってもんだ。音楽もそこまでお人好しじゃあないんでね。
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